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最高裁判所第三小法廷 平成5年(行ツ)44号 判決

奈良市登美ケ丘五丁目一番一三号

上告人

黒田重治

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 麻生渡

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行ケ)第一〇八号審決取消請求事件について、同裁判所が平成四年一一月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男)

(平成五年(行ツ)第四四号 上告人 黒田重治)

上告人の上告理由

原判決は、証拠の解釈を誤り、経験則に違背した審理不尽、理由不備の違法がある。

一、原判決は、その判決理由中において、「そして、上記合着の工程について子細に検討すると、ダイスから押し出された軟化した状態の軟質合成樹脂は、軟化した内管の外周で、ダイスによりしごかれつつ外装されて外管に成形され、内管外層の筒ネットの外表面を覆い、外管内表面は筒ネットの空隙に入り込んで、内管及び筒ネットを包み込み、さらに、上記ダイスが外管の外側からホースをしごくような形で圧力を内管に加える際、その圧力に対して、その断面形をできるだけ一定に保形するために封入された圧力媒体の内圧が拮抗し大きな応力を示すこととなり、その結果、内管の外層に套嵌された筒ネットは軟化した内層管表面内にくい込んだ状態となり、かくして、介装された筒ネットの編み目は、合着された内外層管により埋められた状態となるものと認められる(筒ネットが外層管内面にくい込まれた状態となることは、前記のとおり、原告も争わないところである。)。かかる状態は前掲甲第三号証の添付図面第三図(特に筒ネット芯2と軟質ビニールパイプ1が接する部位の形状)からも明らかである。」と述べ、これを前提として判断を進めている(原判決二〇頁一八行~二一頁一五行)。しかし、右に述べた合着の工程において、「上記ダイスが外管の外側からホースをしごくような形で圧力を内管に加える際、その圧力に対して、その断面をできるだけ一定に保形するために封入された圧力媒体の内圧が拮抗し大きな応力を示すこととな」っても、「その結果、内管の外層に套嵌された筒ネットは軟化した内層管表面内にくい込んだ状態と」はならない。原判決の認定は、「外管の成形圧力と内管内に封入された圧力媒体による応力とによってはさまれた筒ネットは軟化した内管表面内にくい込むことになる。」と要約されるが、これは、押出成形という技術について全く理解しない独自の解釈に基づいたものである。以下その理由を説明する。

二、引用例(甲第三号証)に記載されている「ダイスから成形して押出される別の合成樹脂外管」に関して、甲第三号証の発明の詳細な説明では、「その外周に該ダイスから押出される熱可塑性合成樹脂の管状体(外管)を套嵌合着し次でこれを冷却する・・・」(公報左欄第一九行~第二一行)、「ダイス7から成形して押出される塩化ビニール樹脂パイプ3で外装すると同時に・・・」(公報右欄第一三行~第一四行)と述べられている。そして、右説明の「ダイスから成形して押出される合成樹脂(外管)」は、高分子学会高分子材料加工委員会編プラスチック押出成形ガイドブック(添付資料五六頁~五七頁)によれば、外管がダイスから押出される前、すなわちダイス内の合成樹脂は、高温に加熱した溶融ポリマー(流動体)である。この溶融ポリマーは、ダイスから押出される方向と同方向にダイス内中央を進行する筒ネット付内管上に合着(合流)しながら成形して押出され、次いで冷却するものである。進行中の筒ネット付内管上に溶融ポリマーを合着させる際、密着をよくするため流動中の溶融ポリマーは、ダイスによる成形圧力が加えられる。その際、溶融ポリマーは、筒ネットを構成する細い糸材をさけて編み目内すなわち内管表面に流れることになる。その結果、筒ネットは外管内面内にくい込まれた状態になる。

しかし、溶融ポリマーの成形圧力が、筒ネットを構成する糸材を加圧しても、表面の軟化した内管よりもダイス内部の溶融ポリマーの方がはるかに変形し易い流動体となっているから、糸材は、軟化した内管表面内にくい込むことはない。さらには、加熱工程を通過して、筒ネットの外面は加熱されているが、筒ネットの内面(裏側)と筒ネットが接する部分の内管表面は加熱されておらず、軟化していない。従って、溶融ポリマー(外管)の成形圧力が加えられても筒ネットが内管内にくい込むことはない。筒ネットが内管内にくい込む状態になるのは、内管全体が軟化すると共に膨張して編み目内で膨らませる(くい込む)以外に方法はない。例えば乙第一号証に示している方法である。

三、原判決は、甲第三号証の発明における合着の工程につき、詳細に検討したとは述べているが、右に述べたように筒ネットの外面と内面(裏面)とで加熱に差異がある点と内管の表面が合着しやすいように軟化しているのにすぎないのに対し、外管となるべき合成樹脂は、高温に加熱された流動体となっているという状態に差異のある点を全く看過している。原判決の甲第三号証の発明の解釈は、経験則に反し、評価を誤った独自のものと言わざるを得ない。

四、次に、原判決は、「かかる状態は前掲甲第三号証の添付図面第3図(特に筒ネット芯2と軟質ビニールパイプ1が接する部位の形状)からも明らかである。-とも述べているが(原判決二一頁一三行~一五行)、右に述べているところから、この部分も誤りである。

即ち、甲第三号証の添付図面第3図の筒ネットは、真田編みであり布状の筒体になっているので、加熱工程を通過させても内管表面は直接加熱されないから内管表面が軟化することはない。従って、前述したように外管(溶融ポリマー)の成形圧力によって真田編み筒ネットの内面が内管表面にくい込むことはない。(同図は、真田編み筒ネットの断面形状が単に凹凸状であることを示したものである。)

五、以上、述べたように、原判決の前記認定は、引用例の押出成形技術を全く理解せず、誤った独自の解釈に基づいてなされた認定である。そのため、引用例の発明の耐圧ホースの合着工程において、筒ネットが軟化した内層管表面内にくい込んだ状態にはならないにもかかわらず、筒ネットの菱目が内外層管により埋められた状態となる点について開示があると判断した点において、事実認定を誤った違法があるものと言わざるを得ない。以上(添付書類省略)

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